保険を考える前に:4つのリスクと「最初の守り」

起きること 家計への影響 最初に守ってくれるもの
病気・けがで入院・手術 医療費 健康保険(3割負担)+高額療養費制度
病気・けがで長く働けない 収入が減る 傷病手当金(会社員・病院職員などの健康保険)
障害が残る 長期の収入減 障害年金
死亡 家族の生活費 遺族年金、勤務先の死亡退職金など

病院や施設に常勤で勤める看護師の多くは、健康保険と厚生年金に加入しています。民間保険は、この表の右列で足りない部分を補うもの、と考えると整理しやすくなります。

医療費:高額療養費制度で上限がある

健康保険では、窓口負担は原則3割です。さらに、1か月の医療費の自己負担が高額になったときは、高額療養費制度で年齢と所得に応じた上限を超えた分が払い戻されます。

例:70歳未満・年収約370万〜約770万円の人が、1か月に医療費100万円の入院をした場合

  • 窓口で払う3割:30万円
  • 高額療養費の上限を適用した自己負担:9万2,940円(8万5,800円+〈100万円−28万6,000円〉×1%)

この区分の上限は、2026年8月から見直され、月額の基本部分が8万100円から8万5,800円に引き上げられました。あわせて年間の上限(この区分で53万円)も新設されています。2027年8月にはさらに所得区分の細分化が予定されているため、最新の金額は加入している健康保険の案内で確認してください。

高額療養費の対象にならないもの

  • 入院中の食事代の一部
  • 差額ベッド代(個室など)
  • 先進医療の技術料
  • 入院中の日用品、家族の交通費

医療保険が役に立つのは、主にこの「対象外の部分」と、上限額を払う間のつなぎです。

また、大企業の健康保険組合や一部の共済組合には、自己負担をさらに抑える付加給付があります。勤務先のマイナポータルや資格確認書に記載された保険者(協会けんぽ・健保組合・共済組合)を確認しておくと、必要な備えの額が変わります。

働けない期間:傷病手当金で収入の約3分の2

病気やけがで仕事を休み、給与が出ない場合、健康保険から傷病手当金を受け取れることがあります。

協会けんぽの場合:

  • 支給額:おおむね「直近12か月の標準報酬月額の平均 ÷ 30 × 3分の2」(1日あたり)
  • 支給開始:連続3日休んだあと、4日目から
  • 支給期間:支給開始日から通算1年6か月まで

例:支給開始前12か月の標準報酬月額の平均が30万円の場合

30万円 ÷ 30 × 3分の2 ≒ 1日約6,667円 30日分で約20万円

ただし、夜勤手当が多い月ほど標準報酬月額は高くなる一方、実際の手取りとは差が出ます。また、休職中も社会保険料や住民税の支払いは続きます(給与から天引きできない分は別途支払う)。「給与の3分の2から社会保険料・住民税を払って暮らせるか」を家計で確認しておくと安心です。

なお、国民健康保険には原則として傷病手当金がありません。勤務時間が短く勤務先の健康保険に入っていない非常勤の人や、個人で仕事を請け負う働き方の人は、この部分の備えが薄くなります。

業務中の感染・けが:労災保険

針刺し事故や業務中の感染、腰痛など、仕事が原因の病気やけがは労災保険の対象になる場合があります。労災と認められれば、治療費の自己負担はなく、休業中も給付があります。

「業務中の事故に備えて医療保険を」と考える前に、職場の報告ルートと労災の手続きを知っておくことが先です。

死亡:遺族年金と「支える人がいるか」

死亡保障が必要かどうかは、自分の収入で生活している人がいるかでほぼ決まります。

  • 独身で扶養家族がいない:大きな死亡保障は必要になりにくい(葬儀費用程度を貯金で確保する考え方も)
  • 配偶者・子どもがいて、自分の収入が家計の柱:遺族年金で足りない生活費・教育費を死亡保障で補う
  • 住宅ローンがある:多くの場合、団体信用生命保険(団信)で残債が返済されるため、その分は保険を重ねる必要がない

遺族年金の額は、子どもの有無や厚生年金の加入期間で変わります。日本年金機構の案内で、家族構成に近い例を確認してみてください。

家族構成別:民間保険の優先度の目安

ケース 医療保険 死亡保障(生命保険) 就業不能保険
独身・貯金が50万円未満 検討の余地あり(少額で) 低い 検討の余地あり
独身・生活費6か月分以上の貯金 低い(貯金で対応しやすい) 低い 状況次第
共働き・子どもなし 低〜中 低〜中(ローンや家計の分担次第) 中
子どもがいて自分が主な稼ぎ手 中 高い 高い
ひとり親 中 高い 高い

「高い」は、公的保障と貯金だけでは足りなくなりやすいという意味です。加入を勧めるものではありません。

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「看護師だから特別な保険が必要?」

病気・けが・死亡への備えは、看護師だからといって特別な保険が必要になるわけではありません。

一方で、看護師ならではの論点が2つあります。

1. 医療事故の賠償責任

医療事故の損害賠償は、多くの場合まず勤務先の病院が責任を負い、病院の賠償責任保険で対応します。そのうえで、看護職個人が責任を問われる場面に備える看護職賠償責任保険もあります。日本看護協会の会員向け制度などがあり、補償範囲や勤務先の保険との関係を確認して検討します。

2. 体力を使う仕事であること

腰痛や体調不良で夜勤や病棟勤務が続けられなくなると、収入が大きく変わることがあります。夜勤手当の比重が大きい人ほど、「日勤のみになったときの収入」で家計が回るかを考えておくと、就業不能への備えの額が決めやすくなります。

保険に入りすぎていないかの確認

保険料は毎月の固定費です。たとえば月1万円の保険料は、30年で360万円になります。

見直しのときは、次の順に確認します。

  1. 勤務先の健康保険の種類と付加給付の有無
  2. 生活費の何か月分の貯金があるか
  3. 自分の収入で生活している人がいるか
  4. 同じ保障が重なっていないか(医療保険が2本、団信と死亡保障の重複など)

見直しのタイミング:就職・転職、結婚、出産、住宅購入、非常勤への切り替え。特に常勤から非常勤や個人の働き方へ変わると、加入する健康保険が変わり、傷病手当金がなくなることがあります。

Nurse Life+の結論

保険は「安心のために入るもの」というより、

公的保障と貯金で足りない穴を、必要な期間だけふさぐもの

です。

まず自分の健康保険・貯金・家族構成を並べて、足りない部分があるかを見る。そのうえで、足りない部分に合う保険だけを選ぶ。この順番なら、入りすぎも入らなすぎも防ぎやすくなります。